クールなイケメンドクターに拾われましたが溺愛されるなんて聞いてません!
「なに絡まれているんだ、行くぞ」
そんな冷静な言葉とともにわたしの手首からおじさんの厚い手が離され、代わりにするりと声の人物の大きな手のひらがさりげなくわたしの手を包み込んだ。
そして、おじさんが向かっていた方向とは反対の道へと迷いなく進みだす。
………え……っ………?
………だ、だれ………?
思考がまったく追い付かないまま、ただ手を引かれる。
人物は変わったけれど、わたしはまた他人に連れられている。
だけど、さっきの無理矢理さとは打って変わった、繋がれた優しくあたたかい温もりに自然と抵抗する気は起きなくて。
それにこの人、わたしが危ない目にあっていると思って助けてくれたんだよ……ね……?
ただ割って入るんじゃなくて、おじさんが反抗できないように恋人のようなフリをしてくれた機転のよさに思わず感心する。
……って、そんなこと考えてる場合じゃなくて!
「あの……っ」
180センチほどある身長を見上げて勇気を出して口を開く。
大きな背中と、艶のあるサラサラの黒髪。
なにもセットされていないヘアやラフな格好から、すでにお風呂に入ったがなにかしらの用事でこの街に来たのだと推測できる。
「……なんだ」
わたしのかけた声に立ち止まり振り返った人物に、わたしは息をするのも忘れるほどの衝撃を感じた。
なに、この人……!
どこかの芸能人……っ!?
整えられた凛々しい眉に、くっきりとした切れ長の二重まぶた。
感情の読めない黒真珠のような瞳。
男らしくしっかりと通った鼻筋。
豪快に笑うことはなさそうだけれどどこか色気を感じる唇。
あまりに端正で綺麗な顔つきに、言葉を失う。
年齢は……肌が綺麗すぎてまったく読み取れない。
わたしよりは年上だろうから20代後半であろうか。
まるで誰もを魅了してしまうようなオーラ、そしてその範囲内にたった今おさまっているわたしは急激に緊張して固まってしまった。