クールなイケメンドクターに拾われましたが溺愛されるなんて聞いてません!
「どうした」
なにも言わないわたしに少しだけ怪訝そうに目を細める男性。
ハッとして慌てて口を開いた。
「っあ、え、と……助けていただいて……ありがとうございました……!」
ぺこりっと腰を九十度に曲げて頭を下げる。そのとき自然と手は離れた。
とことんついてない日だと思ったが、最後だけはそうでもなかった。
こんなに素敵な人に助けてもらえたなんて、内心ラッキーで胸が踊る。
だけどこれ以上こんな時間にこの男性の時間を奪うわけにはいかないと思ったわたしは
「じゃ、じゃあこれで……」と街中から抜ける横道へと進もうとした。
「……ちょっと待て」
優しいわけでもなく、冷たいわけでもない。
感情の読めない口調、だけどやっぱり綺麗なその声に引き止められ、わたしの心臓はどぎまぎしだす。
「な、なんでしょうか……」
「またなにかあったらいけない。家まで送る」
「え……っ」
まさかそんなことを言われると思わず目を泳がしてうろたえる。
見ず知らずの他人相手になんて紳士的な人なんだ。
本当はすごく嬉しいけれど……。
「お、お気持ちだけでけっこうです……!すぐ近くですので……!」
とっさに嘘をつく。家賃が払えず出なければならなくなったため家なんてない。ない家まで送ってもらうことなんてできない。
「遠慮するな。近いんだろう。俺は明日仕事が休みだからかまわない」
「……っ……」
あまりに親切で逆に参る。あえて遠いと言えばよかった。公園まで行って「ここが自宅です」なんて死んでも言いたくない。
いや、遠いと言えばより送る理由が深くなるか……。