クールなイケメンドクターに拾われましたが溺愛されるなんて聞いてません!
「あ、あの、本当に大丈夫ですので……!」
路頭に迷っているだらしない馬鹿な女だと知られたくない。この人はきっと平均以上の暮らしをしている男性だ。そんな雰囲気を感じる。
「なぜかたくなに断る?……ああ、彼氏の家にでも行くのか」
不思議そうな口調のあと、一人納得したように軽くうなづいた。
「……」
彼氏なんて……もう衛生士学校にいたときが最後だ。つまり軽く四年はいない。
彼氏どころか……この土地には、友達さえいない。
わたしは“あれ以来”ずっと一人で過ごしてきた。
人と関わるのが、怖くて。
自分のせいで誰かを傷つけるのが、怖くて──。
先ほど感じた温もりが、もう一度わたしの左手に宿った。
驚くと同時に気づけば瞳に浮かんでいた涙が頬にぽろんとこぼれ落ち、自分が泣いていることを知る。
そんなわたしを男性はなにも言わないまま手を引いて歩き始めた。
あたたかい……。
こんなに人の温もりに触れるのはいつぶりだろう。
初めて会った知らない男の人だけれど、今だけこの人に甘えても……いいのかもしれない……。
いくつかの居酒屋が少しずつ灯りを消していく頃。
大きな頼もしい背中をただただ見つめ、気持ちを落ち着かせながら彼に着いていった……。