我が儘社長と不器用な2回目の恋を
斎の言葉に、夕映は驚いてしまった。
誕生日プレゼントが翻訳の仕事だとは思いもしなかった。
けれど、昔から斎と夕映が描いていたものそのものが現実になったものだった。
このアプリを使えば、見たことがない海外の物語を知ることが出来、翻訳をすることも、そして日本に広める事が出来るのだ。
「すごい!!斎、いつの間にこんな事考えてたの?」
「俺が高校でアメリカ行ったのは、半分はこれをしたかったんだよ。あのときに、いろんな本屋や出版社と仲良くなっておいて、人脈を広げておいた。あとは、最近アプリの企画を通した。………おまえに会えたから、な。」
そんな昔から自分との夢を叶えるために、斎は動いてくれていたのだ。そして、小さな会社まで立ち上げてくれたのだ。
それを知って感動しないはずはなかった。
「ありがとう、斎。最高の誕生日プレゼントね。」
「約20年越しの夢が叶ったんだ。当たり前だろ。」
「そうだね。……本になるのが、今からすごく楽しみ!」
「あぁ、そうだな。とりあえず、俺がおすすめなのはこれだな。」
そう言って、斎はアプリ内にある1つの本を押した。
そこにはファンタジーなのか、妖精やドラゴンのような物たちが描かれている本が表示された。
「挿し絵も綺麗になんだね。」
「これはいい作品だった。日本でも有名になるぞ。」
「うん、気になる!ねぇ、斎。少しお話し読んで?」
「…………わかった。」
夕映は、斎の肩に頭を乗せて、甘えるように彼に寄っ掛かった。すると、斎は夕映の頭を優しく撫でながら、とても優しくて落ち着いた口調で、本を読み始めた。しっかりと日本語に訳してくれる。
それを聞きながら、夕映は昔を思い出していた。
初めて会った時と同じ。
彼の声を聞きながら、物語をワクワクした気持ちで待っている。
そんな姿を夕映は今でも鮮明に思い出していた。
それだけで幸せで、夕映は思わずフフッと笑ってしまった。すると、斎は物語を止めて夕映を見た。
「何笑ってんだ?」
「………昔みたいで幸せだなぁーって。」
「そうだな。懐かしい。」
「うん。」
斎はスマホを置いて、夕映を優しく抱きしめた。
彼の微笑んだ顔が目の前にあり、夕映はドキリとしてしまう。無邪気に笑う彼はまるで昔のままだった。
「夕映、愛してる。昔も……いや、昔以上に。」
「私も斎が大好きだよ。」
恋人になれた事を確め合い、そして夢が叶った事を喜び合うように、斎と夕映は朝日に包まれながら、何度もキスを交わした。