我が儘社長と不器用な2回目の恋を
それから更に数日後。
桜の季節は終わり、少しずつ汗ばむ気温の日も出てきた梅雨前の過ごしやすい日々。
夕映はこの頃の季節がとても好きだった。
大学の頃からよく通っていた大きな図書館に向かい、そこのカフェテラスで仕事をする事が多くなっていた。
心地いい風と、静かな雰囲気、そして新緑の香りが夕映を落ち着かせてくれるのだった。
パソコンと仕事の洋書の原稿、そして休憩の時に飲むコーヒーと、本。本は、先日発売されたばかりの洋書だった。
その本を書いたのは、夕映にとって大切な作家だった。
休憩や寝る前だけと決めないと、いつまでも読んでしまいそうなので、我慢しながら読み進めており、残りも僅かになってきた。
そうなると、終わってしまうのが寂しくてその本を読むのが切なくなってしまうものだった。
仕事をしながら、その本をちらりと見つめる。この本を見せてくれたのは幼い頃の斎だった。
父親の目を盗んで、つまらないパーティーから抜け出した時に、中庭で本を読む彼に会ったのだ。絵本に出てくるような風貌の彼は、まるで異国の王子や妖精のようで、そこだけが異世界に感じられたほどだった。