我が儘社長と不器用な2回目の恋を
手を払って逃げることなど、許されるはずもなく、近くの駐車場に向かうと、立派な外車が停まっていた。車をよく知らない夕映でも知っている高級車だ。
見たことがない車なので、大学の頃とは違うのだと思うと少し寂しくなってしまう。
「どうした?………あぁ、あの車もまだ家にあるぞ。初めて買った車だしな。」
「え。」
「なんだよ。昔の車じゃないのかって、がっかりしたんじゃないのか?」
「そう、だけど……どうしてわかったの?」
「おまえが残念そうな顔してた。まぁ、俺だからわかるんだろうけど。」
「………本当に変わらないんだから、そういう所。」
「そういうのがよくて付き合ってたんだろ?」
「…………わかんないよ。」
相変わらずの自信たっぷりな言葉を聞きながら、夕映は苦笑してしまった。
確かに、自信満々の所も尊敬していたし、自分の事をわかってくれているところも好きだった。
それでも、素直に彼に伝えることなど出来るはずがない。………今は、もう恋人ではないんだから。
呆然と車を見ているうちに、斎は車の助手席を開けてくれる。そういう所は、やはり紳士だなと思いつつ、そのまま席へと座った。
運転席へと周り、斎が椅子に座る。
彼は今の家を知らないのだから最寄り駅でも教えないと……と思い、彼の方を見た瞬間だった。
「っっ………!!」
後頭部に手を伸ばされ、そのまま頭を引き寄せられて、キスをされた。
唇と唇とが合わさるまではあっという間だったけれど、キスはとても長かった。
息苦しいほどに深くて、甘いキス。口の中で彼を感じ、そして息づかいと水音が狭い車内に響き、とてもいやらしく感じてしまうほどに大きく聞こえた。
「っ………い、斎………ぁ、ちょっ………まって……やぁ……!」
彼に抱きしめられながら、夕映は斎の胸を押したけれど、びくともしない。
それどころか、甘いキスを与えられて、体から力が抜けていき、逆に彼に体を支えられてしまうほどになっていた。
ようやく斎が唇を離した頃には、夕映は涙目になり、呼吸が少し乱れ、頬は真っ赤になっていた。
それに、彼の胸に顔を埋めて体を寄り添わせて、呼吸を整わせるしか出来なかった。
そんな夕映を先ほどまでとは違い、優しく抱きしめて、頭を撫でてくれる斎がまた呟いた。
「俺と、もう1回付き合ってくれないか?」
そう言った斎の言葉は、いつもと少し違っていた。
甘えるような言葉を、夕映は朦朧とした意識のまま聞いていた。