我が儘社長と不器用な2回目の恋を
夕映は、その事を思い出してはキスをしてくる彼を思いきり押して、斎から体を離した。
「遊びなら止めて。」
「なんだよ、それ。遊びじゃないって言ってるだろ。」
「わかんないよ、そんなの……。切ってきた女の子は遊びで、私は違うなんて、わかるなずないよ。」
「遊びじゃない。俺が女に告白したのはおまえだけだ。」
「え…………。」
夕映は驚いた顔で、彼を見つめてしまう。
いつもならば、にやりとした笑みを見せる彼だが、目の前の彼はとても真剣な表情だった。まっすぐに見つめる彼の綺麗な瞳に、夕映は吸い込まれそうになってしまう。
「そ、それって……。」
「言葉のままだ。俺が今まで女に告白したのは、昔と今の2回だけ。……おまえしかいない。」
「そんな、だって。……斎は、いつも女の人が周りにいたじゃない。」
「それは誤解だと思うけどな……まぁ、相手から告白される方が多いんだ。」
「そういう事、なの?」
「あぁ。」
堂々と返事をする彼から、やっと視線を逸らして、車の外を見た。
平日の昼間とあり、ほとんど人が通らない。
ホッとしながらも、先程の行為や今の彼の言葉を思い出しては更に鼓動が早くなってしまう。
すると、不意に彼の手が夕映の顔に触れ、輪郭をなぞるように指先が流れていく。
そして、片手で頬を包むように触れると、ゆっくりと顔を正面に戻されてしまう。
くすぐったくも、温かくて気持ちいいと感じながら、それを拒否せずに従う。
「じゃあ、返事は?」
「………。」
「俺の恋人になる?」
「…………確かに、あなたにまた惹かれ始めているような気がする。だから、この手を拒否できないの。でも、まだ斎を「好き」って思えない。……だがら、返事は出来ないわ。」
「なんだよ、それ………。」
「ごめんなさい。」
「………わかった。」
そう言うと、彼は夕映から手を離して、シートベルトをしめてからハンドルを握った。
「……おまえんち、どこなんだ?」
「えっと……ジムの近く。」
「わかった。そこまで行くから、あとは道教えろよ。」
ぶっきらぼうにそう言うと、彼はゆっくりと車を動かした。
まっすぐ前を見て、それからは1度も夕映を見ることはなかった。