我が儘社長と不器用な2回目の恋を
その後、夕映と依央は街を歩いて、大きな本屋さんへ向かった。
夕映は彼のために下調べをした本の事を、いろいろと教えた。依央は「それも楽しそうですねー。」とか「いっぱい本を買うなら送ってもらおうかなー。」など、期待した様子で夕映の話を聞いていた。
本屋についてからは、依央がお気に入りの作家さんのコーナーの前に立ち2人で「これは………。」などと、本の話をしながら長い間過ごした。自分の好きな本を見ながら、話をして盛り上がれる。それは、夕映にとっても特別な事で、すごく楽しかった。
その他にも、夕映がおすすめした本を依央は次から次へとカゴの中に入れており、夕映が気づいた頃には十数冊にもなっていた。
「結構重くなったんじゃない?」
「そうですね………いろいろ入れすぎたので、厳選しなきゃですね。あのテーブルがあるスペースで少し読んでみます。」
「わかった。じゃあ、少し休憩しようか。」
長い時間本屋をフラフラしていた2人は、座って本が読めるスペースを見つけたので、そこに並んで座った。そして、2人で選んだ本を見てから依央が購入するか決めていた。
いろいろ話して決めたが、結局はほとんど全ての本を買うことになり、数冊そのまま持ち帰る以外は、自宅に届けてもらう事なった。
そして、本屋を出るときだった。
「あ、ちょっと待ってください………。」
「ん?どうしたの?」
「これ、夕映さんが翻訳した本じゃないですか?……ここに名前が。」
「あぁ。そうだね。そういえば、この本の発売日最近だったかも。」
店に入ってすぐの新刊コーナーに、夕映が翻訳した単行本が置かれていた。表紙にも小さく「水無瀬ゆえ」と書かれていた。本名のままだが、名前だけ平仮名標記にしているのだ。
「見つけてよかったです!これ、買ってきます!」
「え………。」
「夕映さんの本ですよ。早く読みたいです!」
言い終わる前に、依央は本を持ってレジに走って行ってしまった。
「……私が書いたわけじゃないから、私の本じゃないんだけどね。」
一人きりになってしまった夕映は、そう呟きながら苦笑した。