【短編】サクラ色の貝殻をきみにあげる
学校が終わって、部活に入っていない私は自転車を漕いで海に向かう。
この海沿いの街が、私は大好きだ。
ちょっとベタベタする海風が鬱陶しいけれど、磯の匂いは少しくさいけれど、それでもゆらゆら揺れる水面を眺めるのが好きだ。
自転車を道端に停めて、アスファルトの上に座って、寄せては返す波を眺める。
「…あ、サクラ色」
砂浜に落ちていた貝殻を見つけて、手に取る。
軽くて、脆くて、すぐに壊れてしまいそうな貝殻。
穴の空いたその貝殻を覗き込んだら、きみが見えた。きみみたいな、海が見えた。
太陽の光を無数に反射して、きらきら眩しい。
それはまるで、宝箱をひっくり返したみたいな。
それはまるで、万華鏡を覗き込んだ時みたいな。
水面が揺れるたびにその光が瞬いて、なによりも、太陽よりも、眩しくて綺麗だ。