【短編】サクラ色の貝殻をきみにあげる
「なにやってんの、こんなところで」
しばらくぼーっとしていたら、頭上から降ってきた声に、息が止まりそうになった。
「夏目、くん」
当たり前みたいに私の隣に腰を下ろすから、体温が急に上がったような気がする。…やめてよ。
「…いいの?2人は」
少し離れたところで足先だけ海に浸かって笑っている三宅くんと莉奈ちゃん。
眩しそうに、すこし寂しそうに見つめる夏目くんは、「たまにはふたりきりになりたいだろ」なんて、またへたくそな笑顔をつくる。
それが私の心をぎゅっと締め付けた。
なにかが刺さったみたいに痛む胸に、言葉が出なくなる。
彼はたったひとことで私の心をこんなに動かすけれど、私が彼に1時間なにか話したところで、彼の心が動くことはあるんだろうか。