【短編】サクラ色の貝殻をきみにあげる
「桜井ってさ、いつも海見てるよね。好きなの?」
学校帰りに通りかかるといつも海にいるのが見えたんだ。そう話すきみの横顔を見つめて、すこし恥ずかしくなって、また海に視線を戻す。
「うん、すき」
海が、すき。
太陽じゃなくて、海が好き。
ふーん、と返事をした夏目くんは、私がさっきまで見ていたサクラ色の貝殻を手に取った。
なんだかドキッとしてしまって、悔しくて。
きみは私のことを見ていたわけじゃないって、分かっているのに。
たまたま帰り道に海にいる私が目に入っただけだってことも、分かっているのに。