【短編】サクラ色の貝殻をきみにあげる
ぽつりぽつりと、他愛のない会話を交わして。
突然夏目くんが黙るから、不思議に思って、並んだ私たちの足を見ていた顔を上げる。
「あ…」
すこし離れたところで、海に足だけ浸かって。
キスをするふたりが視界に映った。
「…はは、あいつら、俺らがいること忘れてるな」
眉を下げて、歪んだ表情で。
泣きそうな顔で、くしゃっとわらう。
すこし俯いた彼の前髪が目元を隠して、海の匂いのする風が優しく私たちの頬を撫でる。
へたくそ。
私は思わず立ち上がって、夏目くんの手をぎゅっと掴んで引っ張る。
「うわ、何…」
驚いて立ち上がった彼の腕を引いて、弾かれたように駆け出す。
きらきらと、初夏の太陽が私たちを焦がす。
彼の手からサクラ色の貝殻が砂浜に落ちて、走り出す私たちの背中を押すように風が吹く。
セーラー服の裾がなびいて、ローファーだから少し走りづらくて、息が上がる。
乾いたアスファルトを蹴って、私の右手には彼の左手の体温が握られていて。