👑Emperor bride
明蘭に引き立てられる両親を
見せまいと 一階の窓から明蘭を
逃がし、自分は台所の裏口から、
飛び出した。
川へ行き若様から釣り竿をうばい、投げた、
ささ、若様お友達にお別れを…
と言いつつも、エドワードの手を
とると国境を目指し一目散に走った。
ただならぬ気配に何かを察したのかエドワードも必死にちいさな足で走った。
一週間前、反乱軍が潜んでいるとの情報を耳にしたが侯爵は、
軍隊に援軍が来たと聞き
安心していた。
だが、カワンは、信じていなかった。
あのブラマダ国の王が信用
できなかったからだ。
天然カールの細身の男、
イヤミたらしく人を抜刀する。
なにせあのぴょんぴょんした
鼻ひげが気持ち悪い。
旦那様は、人がいい上にお優しい。
カワンの話を軽く聞いただけだ
疑いの欠片さえなかった。
絶対許さない。
ブラマダ国王カイン、アラバレント。
おまえだけは、ゆるさない。
旦那様の仇は、必ず…
必ず…。
もしもの時のため明蘭に護身術
を特訓していた。
女の子だから最悪の事態が
起きたとき何とか逃げ延びる
ように。
そうしてその日、仲の良かった
家族は一瞬でバラバラになった。
「あの時、カワンが護身術を教えてくれたから生き延びれた。
ありがとう…。ウウウッ」
「あれから、ご苦労された
とききました。ずっと、ずっと、お探し致しました。」
エドワードはスカートをはいて
リボンをつけた張蘭を城につれ
てきた。城とは呼ぶが宮殿である。
初めて見る宮殿はまるで別の世界に
入り込んだ、アリスのようであった。
庭は、広大に広く、バラ園は叉
花の山のようでもあり、沢山の
見たことのない美しさに
呆気に取られていた。
「張蘭、」
背中越しに呼ばれた名前は…
なま…えは…
張蘭の肩がブルブルと震えた。
張蘭にはすぐわかった。
振り向いたときには口からも目
からも涙が溢れていた。
生え代わった白い小さな歯を、
かみしめて
「うぐわあああーぁぁぁん。
うわぁーあああーん。ママー
ママー
ママー
ママー。」
久し振りの母親に抱かれ小さな
張蘭は、やっと、やっと寂しさと
苦しさから逃れる事が出来た。
その朝、琴乃は張蘭の短い髪を、
クシですきながら、リボンをさした。
フリフリのワンピースを着せて
優しく微笑んだ。
「いい、張蘭、今からは
レディとしての
躾があるから
しっかり頑張るのよ。
もう張蘭は、一人じゃないからね。
つらかったら帰って来るのよ。
今までの事考えたらたいした
事無いわよ。
笑って、張蘭。」
張蘭を見送る時、張蘭が
振り向き
振り向き
手を振り、頭を下げていたのを
見ながら琴乃も手を振った。
「馬鹿ね張蘭頭なんて、
さげ…ウッウッ
下げなくて、いいのよォオオー。
私だって楽しかったんだからぁぁ」
見えなくなった黒い車を
いっまでも目で追っていた。
少しずつ伸びたオカッパの髪を、
揺らしながらエドワードに連れ
られて王太子専属の
車に乗って張蘭は裸足で駆け
回った、野原をながめ、やぎや、
馬、牛に、小さな声で、
ぶっぶっと別れをつげていた。
青々と晴れあがり天が高く高く
みえる
9月の終わりだった。
そしてその夜2万発の花火が
上がった。
日本の有名な花火大会に負けない
ほどの大きさの花火に何万人の人
達が酔いしれた。
窓から花火を眺めつつ
張蘭の喜ぶ顔が浮かんだ。
「結局、母親には勝てないや〜‼
張蘭、今日は最高の日に
なったね‼」
そう寂しく呟いた。