三月の向日葵



今日も一人、午前中に人が死んだ。


家族がすすり泣いていて、小さな子供が
「お母さん!お母さん!」と叫んでいた。


ああ、あの子のお母さんが亡くなったのか。
なんてかわいそうなんだろう。
あんなに小さいのに。


でも仕方のないこと。
人間はいつか死ぬんだからさ。


「茉莉ちゃん、検査に行くわよ」


「……はぁい」


渋々ベッドから降りて点滴をカラカラと押す。


芳子ちゃんは満足げに頷くと、私と一緒に廊下を歩いた。


廊下では、さっき死んだあの子の母親の親族が集まっていて、
何かを話していた。


あの子はどうなるんだろう。
お父さんとかいるのかな。
もしいなくて一人なんだとしたら余計にかわいそうだな。


なんて思いながら歩いて、エレベーターに乗った。


ゴウンと音が鳴ってエレベーターが下へと下がっていく。


チンと音がしてエレベーターが開くと、
外で待っていた患者や医師が乗り込んできた。


私と芳子ちゃんはエレベーターから降りて検査室へと向かった。





検査室へ向かう廊下には中庭があって、
そこにはベンチがある。


そのベンチに、私は人を見つけた。


「ん?誰、あの子」


見たことのない少年。


半年間ずっとここにいるけれど、
私と同い年くらいの男の子は入院なんかしていないはずだった。


「ああ、昨日入院が決まった子なのよ」


「そうなんだ。ふーん」


ぼうっと空を仰ぎ見る少年を横目で見ながら、
検査室へと急いだ。


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