三月の向日葵
「どうぞー」
姿勢を正してそう声をかけると、
扉がすぅっと開いた。
そこからひょっこり顔を出したのは
茶髪のゆるふわヘアをした女の子、京子だった。
「ああ、京子じゃん」
安藤京子。中学の頃の親友。
京子は顔だけを覗かせて笑うと、
扉の向こう側に向かって手を振った。
何かと思って見ていると、
ぞろぞろと人が病室に入って来た。
瞬く間にいっぱいになる病室。
それは全部中学の時の同級生だった。
「ちょっと、何なのみんな」
「えへ。連れてきちゃった」
京子はてへっとウインクする。
連れてきちゃったって、
この人数どうやって集めたんだよ。
みんな色んな制服を着ている。
それが高校生感を出していて私は悲しくなった。
私はその制服を着られない。
特に京子が来ているセーラー服を見ていると、
私が通うはずだった高校のことを思い出して悔しくなる。
こんな病気にならなかったら、
今頃京子と並んで通えたはずなのに。
一体みんなは何しに来たんだ。
そう問いたくなるほど、みんなの顔はとてもキラキラしていた。
「ほら、坪井」
坪井は中学の時、三年間同じクラスだった男子。
京子が坪井の背中を押して前に出させると、
坪井は顔を真っ赤にさせて目をそらした。
「あ、あのさ、茉莉。
俺、陸上部に入ったんだ。それで、その……」
「やだぁ。真っ赤になっちゃって!」
「頑張れ、坪井―」
坪井が私のことを好きなことは随分前に京子から聞かされている。
それにしても坪井。何の話をしたかったのか分からないけれど、
私にその話は禁句だよ。
私が入りたかったはずの陸上部の話をされるのは嫌。
地雷を踏んだね。
今にも怒り狂いそう。
でも私は大人だからそういうことはしない。
笑顔で坪井を見つめてみせる。
「だから、その、元気になれよ」
「うん、ありがとう。坪井」