三月の向日葵
私からの感謝の言葉を聞いた坪井は、
嬉しそうに顔を綻ばせた。
それを見て京子がヒューと口笛を吹く。
そして手を叩いて笑った。
「あはは。じゃあ次は万里香ね。
はい、近況報告会の始まり始まり~」
近況報告会なんてこの病室でやらないでくれ。
京子のおせっかいが始まった。
京子は私を元気づけようとこうして
みんなを呼んでくれたんだろうけれど、
未来のない私からすれば
可能性が無限大にある未来を持つみんなの話は苦痛でしかない。
早くどっかに行ってくれ。
頭から布団をかぶりたくなった。
報告会とやらはそれから一時間は続いて、
みんな楽しそうにお喋りをしていた。
私も嘘の仮面をかぶって笑顔をまき散らす。
そこへちょうど芳子ちゃんが顔を出した。
「あなたたち、茉莉ちゃんは点滴交換の時間だから、
少し出てくれないかしら」
「あっ、じゃあ私らもう行くね?」
ナイス芳子ちゃん。
今度は満面の笑みを浮かべて、私はみんなに手を振った。
みんなはぞろぞろと病室を出ていく。
最後に京子が私に手を振りながら廊下の向こうに消えると、
私は大きなため息をついた。
「ありがとう芳子ちゃん」
「えっ、何が?」
「なんでもない。とにかく助かりました」
深々と頭を下げてみせると、
芳子ちゃんは小さく笑った。
そして手早く点滴を交換していく。
新しい点滴がポタポタと落ちていくのを見ていると、
芳子ちゃんがカーテンを開けた。
「今日はいいお天気よ。カーテン開けないと勿体ない」
「窓は開けらんないじゃん。そんなのつまんない」
「仕方ないでしょ。危ないもの」