ゼフィルス、結婚は嫌よ
熱聴する義男
しかしこのような史実を客観的に捉え得た高山花枝という人物が、だから「今の時代の我々女性が、この轍を踏んでもよいでしょうか?夫と家庭にただ隷属するような人生を歩んでいいとは私には思えません。良妻賢母にただ甘んじていてはならないのです。女性である前に一個の独立した人間でなければなりません。確固とした見識を持ち男性に伍してものを申さなければならないのです…どうかすればとかく戦争に走りがちな男性を制御し和に導けるのはハッキリ女性の〝力〟です。社会をつなぐ〝力〟が我々にはあるのです…ですから皆さんはいたずらに男に頼らず、結婚を人生のゴールとせずに、しっかりとした、独立した人生をまず歩んで欲しいと思います」などとする講演を彼女は惑香ら5人に、そして多くの聴衆らの前で為した分けである。たどたどし気にこのような高山の講演要旨を義男の前で語る惑香はしかし、こんな話にはたして義男が興味を持つだろうかと危ぶまれて仕方がない。時折り義男の反応をうかがうのだがその義男は興味を抱くだろうか?どころではなく、今や熱聴の呈で、惑香の一言一句に「うん、うん」とか「なるほど」を連発し、両肘をテーブルの上について身を乗り出してくる。その義男に「あの、あなた…ミックスサンドが来ました」と注意を促す惑香。ミックスサンド2人前を持って横に立つウエイトレスに「ああ、いや、これはどうも!気がつかずに…ハハハ。すいません」とあやまってからサンドイッチをテーブルの上に置かせ惑香に「いやいや、本当に興味を抱かされるお話です。ぜひもっとうかがいたいが、まあ、まずは腹ごしらえです。どうぞ召し上がってください。お塩は…?」