ゼフィルス、結婚は嫌よ
「むっ」と押し黙る麦子
「いや、失礼しました。勝手にお相手させてもらって。本当に踊りが素敵で、本格的だったものですから。誰かがカバーしなければと…ははは、わが身の無様も、トーシローの身もかえりみずに、すみません」と一段落ついてあやまる義男に「いやいや、なんの。こちらのクリスチャンディオールで決めた女は何を隠そう、ブロードウエイ仕込みのプロのダンサーです。それに伍して踊るあなたもさすがだった」と云う麦子に「誰がクリスチャンディオールだ、この」と美枝子が云い「こいつの云うことは信用しなでください。プレタポルテです、これは」と自分の服装を断ってから「ま、プロのダンサーというのは本当ですけどね」とみずからを口上する。さらに「ところであなた。コンサート会場でよくお会いしますね。この前は確か…」と当然の質問をぶつけるのに「ふじ子ヘミングです。日比谷公会堂でした」と答える義男。なぜいつも彼女たちの前にあらわれるかは説明なしだ。それを教師の基子が「そうそう、思い出したわ。あのときの方だ、あなたは。ふじ子ヘミングのコンサートの合い間に、いまと同じようにロビーで談笑していたわたしたちの前に来て、いつの間にか会話に加わっていたのよ。いささか不思議ですわね。偶然なのかしら?それとも?…」と学校の先生らしくたくみに断定し、かつやんわりと詰問もしてみせる。しかしそれを麦子が「それともなんだって云うのよ。この方が私たちのうち誰かひとりを見初めているとでも云うの?」とやってしまう。あきれた基子が「だから、あんたは聞きにくいことをはっきりと云うんじゃないの。ったく」と義男を気にしながら云うのに「うふふ、麦子、少なくともあなたじゃないわよ」と恵が茶々を入れる。「むっ」と押し黙る麦子。