桜の木の下で

｢待て……｣

腕を掴まれて、菅田さんに抱きしめられた。

｢……｣
｢何泣いてんの？｣
｢えっ？｣

菅田さんを見上げると、
指で涙を拭いてくれる。

私、泣いてたんだ。

｢だって…菅田さんが間抜けな顔って
言うから〜｣

涙がどんどん溢れてくる。

｢バカ…そんなことで泣くなよ。
いつもの冗談だろ？｣
｢だって…菅田さん……｣
｢な〜に？｣
｢……わっ、私を…抱きしめるだけで
キスもしてくれないし…｣

私は恥ずかしくなって……俯いた。

そう……
私たちは付き合っているのに
キスもまだだ。
菅田さんの家に泊まっても
一緒に寝るけど
抱きしめられて寝るだけ。

初めは、大事にしてくれてるのかな？
とか、思っていたけど…
徐々に不安になってくる。

まだ佐藤先輩のことが好きで……
なんて考えてしまう。
菅田さんを信じたいのに……

｢陽夏？｣
｢なに？｣
｢顔を上げて｣
｢嫌だ。恥ずかしくて無理｣
｢陽夏っ｣

顎をあげられ、菅田さんと目が合う。

｢稜って呼んで…｣

艶っぽい顔をして私を見る。
カッコイイ〜。

｢りっ、稜…っ…んん……｣

名前を呼んだ瞬間、
菅田さん、いや。稜の唇が、私の唇に触れた。
柔らかくて…軽く触れただけなのに。
唇から熱が全身に流れる。
心臓がドキドキして、
顔が火照る。

｢陽夏…｣
｢……｣
｢可愛い｣

私の唇を指でなぞる。
それがあまりにもセクシーで
またキスして欲しくなる。