桜の木の下で
「綺麗だったね」
「あぁ、綺麗だったなぁ」

佐藤先輩と彼氏さんが前を歩く。

私と菅田さんは、その後ろを歩いていた。

お似合いのカップルだなぁ。
羨ましい。

それに比べ、私達は無言だ。
早く帰りたい。
この場から離れたかった。

暫く歩いた……。

「佐藤先輩、私の家こっちなので、
ここで失礼しますね」
「そうだったね。気をつけてね。
あっ、そうだ。稜に送ってもらったら?」
「い、いいです。ここからそんなに遠くないですから」

今、一緒に帰ったら気まずいどころじゃない。
早く1人で立ち去りたいのだから。

「大丈夫ですから。失礼します。
今日はありがとうございました」

私は3人に頭を下げて、家の方に早足で歩き始めた。

浴衣じゃなかったら、走ってるのに……。
でも頑張った。
早く姿が見えないところまで行きたかった。

菅田さんが追いかけてくるなんて知らずに。

ただ歩いた。早くしないと泣いてしまうから。

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