双星の煌めきは月夜に魅せられて
「三村は今は組の仕事で忙しいからね。
こっちに構ってる余裕はないよ」
千尋は暴走族の幹部だけではなく、谷口組の若頭だったのだ。
話をすれば長くなるが、端的にまとめるとこうなる。
及川千尋の名前は旧姓らしい。
というのも、谷口組に引き取られたのが彼が中学生の時なので、常識はしっかりと叩き込まれた後だったのだ。
谷口組に嫌気がさして、こんな世界に生きるくらいなら自分が変えたいと思ったらしい。
持ち前の抜群の運動神経を利用して、今では周りから期待されている若頭になっている。
そして自分が組長になったら、今の形態を大きく変えて日本の平和へと繋げていきたいのだそう。
つまり、狙う相手が俺達と同じだということだ。
「僕は谷口組の裏切り者だよ。胡桃をもうこれ以上闇に染まらせないためにここに来た」
「じゃあ、なずなにそこまでやった意味はなんだよ……?」
「彼女がここに二度と来ないためだよ。確かに大きな怪我はさせちゃったけど、骨折はさせてないから安心して」
エレナ──胡桃達がここに来たのは推測の通り、桜蘭を谷口組が乗っ取るから。
それをいつぞやのデートという名の取引をした時に千尋が月那に打ち明けたのだ。
代わりに、月那が千尋に提供した情報は
「月夜が味方なのは心強いよ」
俺達の正体だった。