世界最後の朝を君と
「この状況でどうやって落ち着けって言うんですか!?」

私は首を左右にぶんぶんと振りながら、「これは夢、これは夢」と自分に言い聞かせる。

「なぁ〜。頼むから聞いてくれって。お前しか頼める人がいねぇんだよ」

頼める…?

突然店長さんの声音が変わった。私は首を止め、店長さんの顔を見る。

困り果てた表情の店長さん。その表情を見ていると、喚く気も、抵抗する気も、すっかり失せてしまう。

私が背筋をピンと伸ばし、店長さんに体を向けると、店長さんの表情がみるみる優しくなり「サンキューな」と小さく笑った。

「お前が言ってた通り、俺はさっき死んだ。背中からナイフで一刺し。心臓まで到達してたみたいで即死だった。」

店長さんは自分の左胸に手を当てる。店長さんは「マジひでーよな」と笑っていたけど、その茶色い瞳の奥は泣いているような気がして、胸がチクチクと痛む。

店長さんは笑顔を保ちながら続ける。

「んで、俺、気がついたら自分の死体の上に立ってんの。血だらけの。だから止血してくれてるスタッフの奴に話しかけたんだけど、皆俺の事見えてないみたいでよ。で、どうしよっかなって思ってたらお前がぶっ倒れて。心配になってここまで着いてきた。で、ラッキーな事にお前は幽霊が見える体質だったって訳」

「…え、ちょ、ちょっと待ってください」

私はキャパオーバー寸前の脳みそをフル回転させて、必死に頭の中の情報を整理する。

「まず一つ、よろしいですか」

「よろしいですよ」

爪をいじっていた店長さんが私に体を向ける。

「私、幽霊が見える体質じゃないです。生まれて一七年間、一回も幽霊なんて見たことないです」

「そうか。俺の霊が見えちゃうくらい俺の事好きだったんだなありがとよ」

「ふざけないでください今すぐ神主さん呼んできて強制的に成仏させますよ」

「冗談ですすみませんでした」
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