世界最後の朝を君と
昇降口を抜け、下駄箱で靴を上履きに変えていると、何者かに、背後からぎゅっとかなり強く抱き締められる。

首が締まって息が出来ない。

「ぐえっ、苦しっ」

私は耐えきれずに、蛇の様に巻き付く腕を「ギブアップ」とでも言うようにぱんぱんと叩く。

と、同時に、ふわりと甘い香水の香りが鼻に入る。

私はこの香りをよく知っている。

この香りは…

「咲希!!」

その声は…

「みな美!」

みな美が抱き締めていた腕を緩めると、私はくるりと振り返る。

みな美は今にも泣きそうな顔で、「咲希…もう大丈夫なの?」と問う。

「全然大丈夫! それより、昨日、家に電話してくれてありがとう。あと、私が気絶した後、ずっと私のこと、見ててくれたって」

「そ、そんなの当たり前じゃん! 咲希が急に倒れちゃうから心配で…! それに、元はといえば、私がラーメンなんて誘ったから…ホント、ごめんね…」

みな美のチャームポイントの大きな瞳がうるっと揺らぐ。

あぁ、本当いい子。みな美は微塵も悪くないのに。私まで泣きそう。

私とみな美は衝動的に抱き締めあっていた。

みな美の後ろで「みな美ちゃんか。可愛いな。胸もあるし」と頷く店長に白い目を向けながら、「みな実、授業始まっちゃう」とその艷やかな黒髪を撫でる。

みな美はパッと私の体から離れる。

「はっ、そうだね」

「うん。先生に怒られちゃう」

私とみな美は顔を見合わせてくすっと笑った。
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