世界最後の朝を君と
「あの暗そうな奴、お前の友達か?」

私の横でずっと会話を聞いていた店長が、黒山君の背中を指差して問う。

私は「そうですけど」と言おうと口を開きかけて、ハッとする。そして不自然に手で口を覆う。

今、ここで「そうですけど」と言ったら、一人で話しているヤバい奴になってしまう。

私は机の横にかかっているナップサックから、ノートと筆箱を取り出して、シャーペンを手に持つ。

そして適当にノートを開いて、ページの右上に小さく、「そうですけど」と書く。

店長は身をかがめてその文字を見ると、ニヤリと笑い、「お前、ちゃんと友達いるんだな。意外」と言う。

思わず回し蹴りをしそうになる衝動をぐっと抑え、しれっとした表情で「こう見えて結構人気なんですよ、私」とスラスラとペンを走らせる。

私が書き終わると、店長は突然大声で笑い始める。

「それ、完全にみな美ちゃんのおかげじゃねーか」とお腹を抱える店長に目も向けず、私はノートに「うるさい」とさっきよりも大きめの字で書く。

店長は「はいはい。俺はちょっとその辺散策してくるわ」と目尻に溜めた涙を指ですくい取り、ふらふらと教室の壁を貫通して、廊下に出ていってしまう。

私は一つ大きくため息をつき、店長の背中を見つめる。

店長は私の前に現れてから、ずっとあの調子だ。

現れてからまだ1日も経っていないのに、まるで週末のような疲労感を感じていた。

私は、店長の背中が見えなくなるまで、その背中をぼうっと見つめていた。
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