世界最後の朝を君と
私達はあのラーメン屋さんの前まで来ていた。
「じゃあ、みな美、よろしくね」
「頼んだぞ、みな美ちゃん。あ、あとこれが終わったらデートしてくれない? って伝えて」
店長は私の肩をぽんぽんと叩く。
「…店長がよろしく、だって」
「任せて!」
みな美はグッと親指を立て、インターホンを鳴らす。
肩をベシベシ叩いてくる店長をガン無視して、私は店員さんが出てくるのを待つ。
しばらくして。
「はい」
一人の女性の店員がドアを開けた。
店員はみな美の顔を見ると、「あ」と表情を明るくする。
どうやら、みな美と仲が良い店員らしい。
「みな美ちゃん。今日はお店休みだけど、どうしたの?」
「突然ごめんなさい。どうしても渡したい物があって」
ポケットから店長のレシピを取り出し、渡すみな美。
「みな美ちゃんがウチの常連で助かったな。確かに、見覚えのある顔だと思ったんだよな。よく体型キープ出来るわ」
うんうん、と大きく頷く店長。
「これは?」
「豚骨ラーメンのレシピです。店長さんが書いたんです」
レシピに目を通し、「どうしてみな美ちゃんが?」と戸惑う店員。
「実は、前に部活帰りにお店の前を通った時、お店を閉め終えた店長さんを見かけたんです。そしたら、店長のポケットからこれが落ちて」
レシピを指差すみな美。
「呼び止めたんですけど、店長気付かずそのまま帰っちゃって。『まあ、明日渡せばいいや』って机の引き出しにしまっておいたらすっかり忘れちゃって…申し訳ないです」
申し訳なさそうに眉を下げるみな美を見て、みな実の演技力の高さに驚く。
「そうだったんだ…。わざわざありがとうね」
まじまじとレシピを見る店員さん。
突然、レシピのある一点を見つめ、店員さんが「あ」と声を上げた。
「?」
私とみな美はレシピを覗き込む。
「店長…」
店員さんの声は震えていた。
レシピの片隅に、数行のメッセージが記されていた。
“レシピ通りに作る事も大事だが、一番大切なのは『気持ち』だからな。お前らなら俺のラーメンを超えるラーメンを作ることができる! 頑張れよ!”
ふと顔を上げると、店長は、自慢げにブイサインを作っていた。
「店長…自分の身に何かあった時の為に…店長…店長……」
店員さんの瞳から大粒の涙が溢れ出る。
「……いい店長さんだったんですね」
みな美も目にうっすらと涙を溜めている。
「あーもう…しめっぽいの、苦手なのに…」
店長はくしゃくしゃと頭を掻くと、店員さんに近付く。
「泣くな。頑張れ。次期店長」
店長は、しきりに「店長」と呟く店員さんの肩をぽんぽんと叩き、踵を返し、歩いて行ってしまう。
その時、店員さんが、ふっと、顔を上げた。
「…気のせいかな、今、店長の声が聞こえた気がした」
「きっと、天国で見てますよ。『頑張れ』って」
みな美は赤く染まる空を仰ぐ。
「店長…」
私はどんどん小さくなる店長の背中をただ見つめていた。
「じゃあ、みな美、よろしくね」
「頼んだぞ、みな美ちゃん。あ、あとこれが終わったらデートしてくれない? って伝えて」
店長は私の肩をぽんぽんと叩く。
「…店長がよろしく、だって」
「任せて!」
みな美はグッと親指を立て、インターホンを鳴らす。
肩をベシベシ叩いてくる店長をガン無視して、私は店員さんが出てくるのを待つ。
しばらくして。
「はい」
一人の女性の店員がドアを開けた。
店員はみな美の顔を見ると、「あ」と表情を明るくする。
どうやら、みな美と仲が良い店員らしい。
「みな美ちゃん。今日はお店休みだけど、どうしたの?」
「突然ごめんなさい。どうしても渡したい物があって」
ポケットから店長のレシピを取り出し、渡すみな美。
「みな美ちゃんがウチの常連で助かったな。確かに、見覚えのある顔だと思ったんだよな。よく体型キープ出来るわ」
うんうん、と大きく頷く店長。
「これは?」
「豚骨ラーメンのレシピです。店長さんが書いたんです」
レシピに目を通し、「どうしてみな美ちゃんが?」と戸惑う店員。
「実は、前に部活帰りにお店の前を通った時、お店を閉め終えた店長さんを見かけたんです。そしたら、店長のポケットからこれが落ちて」
レシピを指差すみな美。
「呼び止めたんですけど、店長気付かずそのまま帰っちゃって。『まあ、明日渡せばいいや』って机の引き出しにしまっておいたらすっかり忘れちゃって…申し訳ないです」
申し訳なさそうに眉を下げるみな美を見て、みな実の演技力の高さに驚く。
「そうだったんだ…。わざわざありがとうね」
まじまじとレシピを見る店員さん。
突然、レシピのある一点を見つめ、店員さんが「あ」と声を上げた。
「?」
私とみな美はレシピを覗き込む。
「店長…」
店員さんの声は震えていた。
レシピの片隅に、数行のメッセージが記されていた。
“レシピ通りに作る事も大事だが、一番大切なのは『気持ち』だからな。お前らなら俺のラーメンを超えるラーメンを作ることができる! 頑張れよ!”
ふと顔を上げると、店長は、自慢げにブイサインを作っていた。
「店長…自分の身に何かあった時の為に…店長…店長……」
店員さんの瞳から大粒の涙が溢れ出る。
「……いい店長さんだったんですね」
みな美も目にうっすらと涙を溜めている。
「あーもう…しめっぽいの、苦手なのに…」
店長はくしゃくしゃと頭を掻くと、店員さんに近付く。
「泣くな。頑張れ。次期店長」
店長は、しきりに「店長」と呟く店員さんの肩をぽんぽんと叩き、踵を返し、歩いて行ってしまう。
その時、店員さんが、ふっと、顔を上げた。
「…気のせいかな、今、店長の声が聞こえた気がした」
「きっと、天国で見てますよ。『頑張れ』って」
みな美は赤く染まる空を仰ぐ。
「店長…」
私はどんどん小さくなる店長の背中をただ見つめていた。