世界最後の朝を君と
入学してまだ間もない頃。

私とみな美は勿論まだ知り合ってもいなかった。

あいにく、私のクラスには、同じ中学校の子も、話せる友達もいなかった。

その日の帰りのHRが終わった時だった。

大量の課題に追われ、寝不足だった私は、早く帰ろうと、バッグに教科書をつめ込んでいた。

腕が重い。脚が重い。瞼も重い。

ぼーっとしながら手を動かしていると、突然、何かが音を立てて落下した。

眠気が一気に冷めた私は、慌てて机の下を覗くと、私の筆箱の中身が全て床にぶちまけられていた。

私がうんざりしながら、ペンを拾っていると、誰かが無言で私の目の前にしゃがみ込む。

顔を上げると、そこには一人の男子生徒が。

長めの前髪の彼は、メモを拾い上げ、まじまじと見つめた後、「…餅ネコ?」と呟いた。

「知ってるの!?」

思わず彼の手を取り、そう叫んでしまった私は、目を見開く彼を見てはっとする。

「あ、ご、ご、ごめんなさい、つい…」

私は慌てて手を離す。身体がお風呂あがりの様に熱い。

ちなみに、餅ネコとは、無趣味の私が唯一好きなアニメで、毎週水曜日に放送されるアニメも毎回欠かさず観ている程だ。

「……」

気まずい空気の中、私は急いでペンを拾う。

「……餅ネコ…好きなの?」

突然、彼はぼそっと口を開く。

私が顔を上げると、彼はチラ、と目を逸らし、頭を掻く。

「あ、うん。小さい頃から好きで…」
「……可愛いよね。つぶらな瞳…とか」
「分かる!!」
「なのに…たまに毒舌なところが…」
「たまんないんだよねー!」

私達はお互い目を合わせる。

私が微笑むと、彼はまた、目を逸らし、頭を掻いた。
< 28 / 41 >

この作品をシェア

pagetop