世界最後の朝を君と
もうお気づきだろうが、彼が後の黒山君である。

その日を堺に、私は黒山君と仲良くなった。

それから一、二週間後。

いつもみたく、私は黒山君と話しながら、下駄箱に向かっていた。

お互い靴を履き替え、正門前で止まる。

「じゃあね、黒山君!」
「うん…じゃあね」

私が手を降ると、黒山君も小さく手を振り返し、背を向けて歩いていった。

黒山君の背が小さくなり、私も帰ろうと、踵を返したその時。

「ちょっといい? 立花さん」

背後で、私を呼ぶ声。

私は振り返り、声の正体を確認する。

「……西ヶ崎さん?」

声の正体、西ヶ崎紗和は、腕組みをして、ふふっと不吉な笑みを浮かべる。

彼女のパーマのかかった、明るい髪色が、夕日を浴びて白く輝く。

西ヶ崎さんとは同じクラスというだけで、全く話した事もないし、友達でもない。

だけど、何となく、苦手意識をしていた。

人当たりも良いし、生徒先生からの信頼も厚い。が、私はどうしてもあの貼り付けた様な笑顔が怖くてたまらないのだった。

思わず眉間にシワが寄る私を見て、西ヶ崎さんは目を細める。

「そんなに怖い顔しないでよ。別に悪い事しようとか、企んでる訳じゃ無いから。安心して」

西ヶ崎さんが微笑むと、彼女の頭上の赤いリボンが、微かに揺れる。

「その逆。私、優しいから、立花さんに忠告しに来てあげたの。わざわざ!」
「忠告…?」

西ヶ崎さんは、首を傾げる私にツカツカと近付き、肩に手を乗せる。

「純輔の事。最近、よく純輔と話してるよね?」

純輔?

一瞬、誰の事かと迷ったが、すぐに分かった。

「黒山君が、どうしたんですか?」

私と目が合うと、西ヶ崎さんは、悪代官の様に、ニッと顔を歪ませる。

そして、私の耳元に、紅い唇をグッと近づけ、囁く。

「純輔にこれ以上、近づかないでくれる?」
「………は?」
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