世界最後の朝を君と
3時40分。

帰りのホームルームが終わりチャイムが鳴り響いた瞬間、突然スピーカーの電源を着けたように教室が騒がしくなる。

伸びをする者、いち早く友達の元に駆け寄る者、大急ぎで教室を出ていく者、床の掃き掃除を始める者。

ここでいつもなら真っ先に荷物をまとめ教室を出る帰宅部の私だが、今日は違う。

私は浮かれた足取りで一人の生徒の元へ寄る。

彼女は体操着をリュックサックに押し込みながら「あ、咲希」と声を上げる。

彼女が振り返った瞬間、墨で描いたように綺麗な腰辺りまである黒髪がふわりと揺れる。

「早く行こ! 今日のラーメンの為にお昼少なくしたんだよ!」
 
彼女は「なにそれ、倒れるよ? 6限体育だったのに」とおかしそうに笑う。

なんと、絵に書いたように地味な女子高生の私に最近友達が出来た。

四月、新しいクラスの新しい席で前後になった彼女、戸田みな実と言う子だ。

今日はみな実と学校の帰り道にあるラーメン屋に行く約束をしている。

みな実はとても良く接してくれる。

面倒みが良く、屈託ない笑顔が絶えない彼女は異性だけで無く、同性からの人気も高い。

最初はそんな彼女がどうして自分の様な地味な人間に構うのか不思議に思っていたが、彼女の屈託ない笑顔で瞬く間に友達になった。
 
みな美がよいしょっとリュックサックを背負うと、クラスメートのサッカー部の男子がみな美に待っていたとでも言うように話しかけてくる。

「戸田達、今から暇?」
「俺ら今日部活オフだから」
「ボウリングでも行こーぜ」

流石みな美。

みな美を狙っている男子は、毎日懲りずに遊びに誘うが、みな美は毎回、間髪入れずに断っている。

みな美はいつものように間髪入れずに、「ごめん今から咲希とデートなの」と言うと、私の肩を抱き寄せる。

「ちぇ。また立花さんかよ」
「毎日デートしてんじゃんか」

みな美と仲良くするようになってから、円も縁もなかった男子と話すようになった。

遊びにもよく誘われるようになったが、みな美に好かれるためにしている事なんじゃないかと考えると、複雑な気持ちだ。

「じゃあしゃーない。また今度遊ぼーぜ。じゃーね、戸田、立花ちゃん」

チャラい事で有名なサッカー部のエース、山田晴也君は、私の耳元に顔をグイッと近づけ、「今度は二人で、な」と甘い声で囁く。

思わず私は「きゃっ」と声を上げ、みな美に強く抱きつく。

そんな私の反応を面白がるようにケラケラと笑い「じゃーなー」と他の男子と共に教室を出て行ってしまう。

「山田に何されたの? 大丈夫?」
「あ、耳元で囁かれてびっくりしただけ。大丈夫」

心配そうに私の頭を撫でながらみな美は「アイツ、本当やる事がいちいちチャラいって言うか、大胆って言うか」とため息をつく。

「咲希も気をつけなよ。じゃ、ラーメン行くか!」
「うん!」

私が笑顔を浮かべ、頷くと、みな美も微笑み、リュックサックを背負い直した。
< 3 / 41 >

この作品をシェア

pagetop