世界最後の朝を君と
この通称「西ヶ崎裏の顔事件」から、私は西ヶ崎さんの事が怖くてたまらなかった。

今の所、西ヶ崎さんに直接何かをされた覚えは無いが、たまに目が合うと、般若の様に物凄い眼力でこちらを見つめてくるのが怖い。

それより、こんな事を思い出している場合では無い。

私は西ヶ崎裏の顔事件から、彼女と会話は愚か、すれ違う事さえも避けてきた。

みな美が一緒ならまだしも、今は一人なので、彼女に何をされるか分からない。

どこかに隠れたい。どこかに…。

私はキョロキョロと辺りを見渡す。

次第に西ヶ崎さんの声が大きくなってくる。

「あった!!」

私は「ブレークルーム」と書かれたプレートが掲げられた部屋に飛び込む。

部屋の中は真っ暗で、壁と扉を挟んで、その先にもう一つ部屋があるらしい。

使われていない部屋だろうか。

私はそおっと扉に手をかける。

と同時に、扉が勢い良く開き、部屋の中から誰かが出てくる。

「わ」
「きゃっ」

私は部屋から出てきた生徒とぶつかってしまう。

暗くてよく見えないが、私の胸程の背丈の生徒らしい。

女子生徒が一旦部屋に戻ると、急に部屋の明かりが付く。

女子生徒は焦げ茶混じりの黒髪を肩下まで伸ばしており、小柄な体にアンバランスに大きなブレザーの裾から指先を出している。

女子生徒は壁からひょこっと首を出し、訝しげに私を見つめる。

「………誰?」
「あっ、あのっ、私、ちょっと今とある人から逃亡してまして、その、咄嗟に…」

長い前髪の間からじーっと見つめられ、私はしどろもどろになってしまう。

「うっ…」

気迫に押され、私が思わず後ずさりすると、女子生徒は突然「ふっ」と吹き出す。

「…『逃亡してて』って…何それ、犯罪者?」

女子生徒は細い肩を震わせ、くすくすと小さな声で笑う。

彼女の堅い雰囲気が一気に和む。

「えっと…」
「…まぁいいや。とりあえず入りなよ」

女子生徒は私に手招きして、部屋の中へ入って行った。
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