世界最後の朝を君と
「え、ちょっと待って、え、待って、え、何で!? 何で!?」

私は女子生徒の肩をがっしりと掴み、前後に揺さぶる。

「痛いです、センパイ」
「て、て、店長!? どういう事ですか!?」

私は店長を見る。

「参ったな…」

店長は眉を下げ、前髪をグイッとかき上げる。

「俺達、そんなにカップルに見えるのか? 照れるなあ」
「気にする所そこじゃないでしょ!!!」
「あの…」

女子生徒は私の手を払い除け、「急に何なんですか?」とジトっとした目でこちらを見る。

「何って…この人の事見えるの!?」

私がビシッと店長を指差すと、

「え…はい」

女子生徒は頷く。

そして、「…あ」と何かを思い出した様に口を開く。

「…もしかして、その人、幽霊ですか?」
「大当たり! お前、もしかして、霊感ある系女子か?」

店長はパチンと指を鳴らし、女子生徒を指差す。

「…昔から、幽霊が見えるんです。だから、それが当たり前になりすぎて、オニーサンが幽霊だって思いませんでした」
「そういう事か」

店長はうんうんと大きく頷く。

「びっくりした…そうだったんだ」

私は心拍数の上がった心臓を手で押さえる。

「そんなに驚く事ですか? センパイも霊感あるんですよね?」

女子生徒は店長の分のコンポタを手に取り、缶を開ける。

「実は、私、霊感無いんです。何故か店長だけが見えるんです」

私がそう説明すると、女子生徒は「店長?」と首を傾ける。

「あ、この人の事。ラーメン屋の店長だったんですこう見えて」

私は「俺のコンポターー!!」と女子生徒に飛びつきそうになっている店長を阻止しながら説明する。

「へえ…見えちゃうくらい好きだったんですね、店長の事」
「どこかで聞いた事ある台詞なんですけど…」

私は顔をこわばらせていると、店長はワクワク顔で女子生徒の顔を見つめる。

「じゃあさ、お前、俺以外の霊とかも見えんの? 俺、自分は幽霊のクセに他の幽霊は見えないんだよ」
「まあ…一応?」

女子生徒はコンポタを一口飲む。

「じゃあ、この部屋にも居んのか!? 俺以外の幽霊!」

店長は目を輝かせる。

女子生徒は私の頭上を指差す。

「はい。センパイの頭の上に男子生徒の霊が」
「イヤーーーーーー!!!!!」

私は思わずしゃがみこみ、頭を抱える。

「飛び降り自殺したそうです」
「そんな情報いらないから!!」

私は涙目になりながら女子生徒を見上げると、女子生徒は口に手を当て、くすくすと笑っていた。

「センパイ、おもしろ…」

女子生徒は目尻に涙を溜めて、細い体を震わせている。

「いい事思いついた!!」

店長は突然そう叫び、女子生徒の肩をガシっと掴む。

「!?」

女子生徒の眉間にシワが寄る。

「俺達を助けてくれないか!?」

私はぎょっとして店長を見る。

「助ける…?」
「俺達、俺を殺した犯人を捜してるんだ! 手がかりはいくつかあるんだが、まだ見つかんなくて…」

女子生徒を見つめる店長の目は真剣だった。

「…それで?」

女子生徒は溜息混じりにそう言う。

「幽霊が見えるなら、他の幽霊にお願いしてくれないか? 何人か犯人の候補がいるんだ。そいつらを尾行するように、幽霊に頼んでくれないか? 幽霊なら、尾行しても絶対に見つからない!」
「そんな無茶な…」

私は思わずそうこぼしてしまう。

「無茶な頼みだって事は分かってる。でも、俺をこうさせた奴をどうしても見つけたいんだ。俺の為にも、俺以外の人の為にも」
「…」

女子生徒は黙ったままだ。

「…頼む。この通りだ」

店長は頭を深く下げる。

「私からも、お願いします」

私も続けて頭を下げる。

「…出来そう?」

しばらくの沈黙の後、女子生徒が突然口を開いた。

私と店長はハッと顔を上げる。

女子生徒は私の頭上を見ながら、「うん…うん…ありがとう」と話している。

「…やってくれるって」
「ありがとう!!!」

私は思わず女子生徒を抱きしめる。

女子生徒はボッと顔を赤らめる。

「ちょっ…!」
「あ、ごめんなさい」

みな美のノリでつい抱きしめてしまった。

私は慌てて体を離す。
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