世界最後の朝を君と
「どうして私なんかとそんなに友達になりたいんですか?」

未来ちゃんは慌てた様子で手を解き、髪を耳にかける。

「餅ネコ友達が欲しいから? でも私、餅ネコもう嫌いだけど。それとも、私を犯人探しに引き込む為?」

確かに、それもある。でも、私が本当に友達になりたい理由はそこでは無い。

「うーん、それもあるんだけど、一番の理由は違うかな」

私は未来ちゃんに微笑む。

「実は私、小学生の時、不登校だったんだ」
「えっ…」

未来ちゃんの瞳がほんの少し大きく開く。

「……」

店長は腕を組み、黙って私を見つめている。

「だから、未来ちゃんの気持ち、誰よりも分かるし、もっと色んな事話したいって思ったんだ」

私はしっかりと未来ちゃんと向き合う。

未来ちゃんも目を逸らさず、こちらを見つめ返す。

部屋に長い沈黙が訪れる。

いつの間にか、窓の外の空は赤く染まっている。

「…じゃあ、期待しとく」

最初に沈黙を破ったのは未来ちゃんだ。

「センパイが、どんな風に楽しませてくれるか、期待しとく」 

そう言って笑う未来ちゃんの表情は小悪魔の様だった。

「う、うん!」
「よし! これで晴れてお前と未来が友達になったところで! 犯人探しの件についてだ!」

店長はそう言い私と未来ちゃんの肩に手を置くが。

「いや、まだ友達にはなってない」

未来ちゃんは埃でも払う様に店長の手を払い除ける。

「友達って出逢ってすぐになる物でも無いし、まだセンパイの事完全に信頼した訳じゃないから。特にオニーサンは胡散臭そうな顔してるしキザっぽいし」
「俺、この子に何かしたっけ?」

店長はいじけた様子で口を尖らせ、払われた手を撫でる。

「あ、それと」

突然、未来ちゃんがこちらを向く。

未来ちゃんのスカートがふわりと舞い上がる。

「一応、私の方が霊能力者の『先輩』な訳だから、私の言う事には従ってくださいね? センパイ」

そう言って未来ちゃんは白い歯を見せる。

「何か嫌な予感しかしないんだけど…」

私がそう言うと、未来ちゃんは唐突に私の後ろを指差す。

「あ、センパイの後ろに子供の霊が」
「イヤーー!!」
「嘘」
「もー」
「でも隣におじさんの霊がいるのは本当」
「ちょっと!!!」

私と未来ちゃんのやり取りを見て、店長ははははと笑う。

まさか未来ちゃんがこんなにSっ気のある子だとは想像もしていなかった。

これではまるで店長が二人に増えたみたいだ。

「もう! あんまり先輩をからかわないでよー!」

私は頬を膨らませ、床に足を踏み付けたが、実はほんの少しだけワクワクしていたという事は、店長にも黙っておこう。
< 40 / 41 >

この作品をシェア

pagetop