世界最後の朝を君と
「ハッ!」

見慣れた白い天井が私の視界に入る。

ゆっくりと体を起こし、あたりを見回す。

紛れもない、私の部屋の、私のベットの上に、私はいる。

制服を着ていたはずの自分の体は、いつの間にかパジャマに着替えられている事に気づく。

ラベンダー色のパジャマの首元は、汗で濃い紫色に変色している。

顔から滴り落ちる汗を手で拭った時、誰かが扉をノックした。

「咲希? 起きてる? 入るよ?」

お母さんの声だ。

お母さんの声を聞いたら何だか安心感で胸がいっぱいになって、涙があふれそうになるのをぐっと堪えて、「うん、今起きた」と返事をした。

部屋に入ってきたお母さんは、お茶碗とコップが乗ったお盆を持っている。

「大丈夫? アンタ、ラーメン屋で倒れて、戸田さんって言う子が、アンタのスマホから家に連絡してくれたの」

みな美だ。

「戸田さん、あんな光景みたにも関わらず、涙ひと粒流さずに、アンタの事見ててくれたんだって」

お母さんはベットの隣の机にお茶碗とコップを置く。

「みな美に…お礼言わなきゃ」

私は衝動的に布団を剥ぎ、ベットから出ようとするが、お母さんに止められる。

「お母さんがちゃんとお礼言っておいたから。もう今日は休みなさい。そこにお茶漬けとほうじ茶、置いといたから。それ食べて寝なさい」

卓上のお茶碗からは白い湯気がもくもくとのぼっている。

渋々布団をかけ直すと、お母さんは「じゃあ、また何かあったら呼んで」と立ち上がり、ドアに向かう。

その瞬間、急にとてつもない不安と恐怖感に襲われ、思わず「待って!」と声を荒げてしまった。

自分でもその声の大きさに驚いた。

振り返ったお母さんもやはり目を見開いていて、「どうしたの?」と問う。

咄嗟に「あ、何でもない。大丈夫。ごめんね」と笑ってみせるが、お母さんの様子がおかしい。私を見るお母さんの表情は固まっている。そして、一言「咲希…」と消えそうな声で呟く。

不審に思いながら私は無造作に頬を触る。

そして、お母さんの表情の意味を理解した。

手のひらは涙でびしょびしょになっていた。

びっくりして、慌てて頬にこぼれ落ちた涙をパジャマの袖で拭うが、瞳からは滞りなく涙が溢れてくる。壊れた水道みたいに、もう自分の意志で止める事が出来なかった。

お母さんは踵を返し、私の元へ近づくと、少し強引に私を引き寄せ、ぎゅうと抱きしめた。

「怖かったよね。大丈夫、大丈夫。もうお母さんがいるから。」

背中を擦られながら、耳元でそう囁かれ、今まで我慢していた何かが体の中で一気に弾けて、それが涙として溢れてくる。もう頭の中はぐちゃぐちゃで、赤ちゃんみたいに大声を上げて泣いた。
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