足あとが消えないうちに
 
 
――――


桜様


元気ですか?


こうして手紙を書くのは、考えてみれば初めてです。必要ないくらい、ずっと近くにいてくれたから当然のことだけど。


こっちは季節がら毎日雪が降っています。最近ようやく、雪道の歩き方にも慣れてきたような。


大変なことも多いけど、望んで手にした仕事があって、人にも幸せなことに恵まれ、借りたアパートも快適で、駅とコンビニが徒歩圏内にあって便利です。


でも、僕は、元気とは言い難いです。


その理由は、もう、この二ヶ月で理解しすぎてしまったけど。


寒さに嫌気がさす瞬間も正直ある中、こっちの雪景色は、まさしく小さなときにふたりで憧れていたものです。静かに降り積もる音は雪の声ともいうらしく、このほわりとした温もりさえ感じてしまう優しい表現は、きっと一生頭に残るんだろうなと思う。色彩を捉えることが出来なくなってしまったのかと錯覚するような白銀の世界は幻想的です。光の粒が空中を舞うあの光景も、ここにはあります。


厳しい中に、数々の美があって。


それらは本当に、美しいのだと理解します。なのに僕は、心の底からそう感じられない。


それは、きみが居ないからで。


どれだけ本物の雪に囲まれても、僕が一番だと認識するのは、昔、きみと二階から降らせた綿と紙の拙い雪です。


それは、きみが居たからで。
 
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