一音に込めた響き
第1小節

藍川家は日本の音楽界に数々のピアニストを排出した明治から続く名家だ

そのルーツは100年以上前に遡る

時は明治時代、文明開化した日本は西洋の文化に追いつけ追い越せと、積極的に優秀な若者を海外に送り、その国の文化や技術を吸収して帰国した者達はそれを全国に広めていった

もちろん西洋の音楽ー 現在のクラシック音楽も派遣された者達によってもたらされた物の一つである

日本の音楽の発展に尽力した若者の内の一人、藍川 真太郎(あいかわ しんたろう)は仲間と共に渡独し、ピアノの音色の虜となった

帰国する際に彼はどうしてもピアノを持ち帰りたいと切に願い、日本政府に頼み込んで、借金をして買ったという伝説が今でも残っている

彼自身が奏者になる事は叶わなかったが、彼の子供と孫達がその意志を引き継いだ

そして100年近い月日を経て、そのピアノを3才の頃に私は父から受け継いだ

初めてピアノに触れた瞬間、私は鍵盤の冷たさと何かを見透かすような周りの大人の視線に震えた事を今でも覚えている

そして、幼稚園から家へ帰るのを他の子達はどうして喜んでいるのか、分からなかった

家に帰りたくない

私の願いはただそれだけだった
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