クールな御曹司と愛され新妻契約
もしも、私にそれが許されるのならば……体の奥で疼く熱に身を焦がされながら、彼の首筋に、両腕を絡めたい。

そんな非常識な考えが浮かび、『なんて事を考えてしまったのだろうか』と、私は羞恥に駆られて思わず彼から顔をそむける。

その瞬間、千景さんが息を詰め、「少々イジメすぎました」と柔らかな声音とともに息を吐いた。

「俺はあなたと愛し合いたいだけで、あなたを傷付けたいわけじゃないです。嫌な時は、嫌だと言ってください」

「傷付いたなんて……そんなこと、思ってないです」

むしろ、このままやめないで。

彼の言葉を遮るように、不埒な感情が生まれる。

もしも今、ただ一言『千景さんのことが好き』と伝えられたら……。
素直に『やめないで』と彼に告げたら――この行為の果てに、彼と心から愛し合うことができるのだろうか?

それとも、これは彼に仕掛けられた甘い罠で、以前の女性ハウスキーパーのように体を求めてくる女性だという烙印を押されて、嫌悪されてしまうのだろうか。

この仮初めの夫婦関係を壊してしまうのが怖くて、私はそれ以上、何も言葉にすることができない。
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