クールな御曹司と愛され新妻契約
……だから、こうして……ここで冷泉様と夜景を見れただけで、きっと幸せ。

初めて恋をして好きになってしまった人は、自分には手の届かない男性なんだから、彼への想いをこれ以上募らせないためにも、これが良い引き際なのかも。

今週の日曜日に実家へ帰った時に両親だけでなく幼馴染がいて、もしも婚約を迫られたら……それが、私にできる親孝行なのかもしれないと、諦めるように感じていた。


「――でしたら、その幼馴染とは結婚しないでいただきたい」

「……へ?」

唐突に隣から掛けられた意思の強い言葉に、私は一瞬理解が出来ず、間抜けな声を出してから冷泉様を見上げる。

すると隣に座っていた彼は、私が膝の上に置いていた手にそっと手を重ねて握り込んだ。

「俺にあなたの婚約者役をさせてほしい」

決意に満ちた表情をした彼の澄んだ瞳にまっすぐ見つめられ、頬がぶわりと熱を帯びた。

「え……えええっ!? で、でも、そんなこと、冷泉様に迷惑がかかります! もし父が婚姻届を出しに行くなんて言いだしたらどうするんですかっ!
それに、いくら役とは言え、冷泉様の恋人の方にも悪いので……! 有難いお申し出ですが、お断りさせていただきますっ」
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