クールな御曹司と愛され新妻契約
――あなたは彼女とは違う、恋愛感情を持たないハウスキーパーでいてほしい。

このキスは、きっと、そういう意味なのだ。


……そっか。そうだよね。
だって〝そういう〟契約結婚だもの。


結婚してほしいという両親の願いも、仕事を続けたいという私の願いも、信頼するハウスキーパーを解雇したくないという冷泉様の願いも、全て叶う提案を断る理由なんか……どこにもない。

互いの人生がめちゃくちゃにならず、それでいて信頼をもって尊重し合えるのなら、これ以上の『幸せ』はないのだから。


私はきゅっと唇を噛み締め、一度瞼を閉じて強く決心を固めてから、冷泉様を見上げた。

「どうぞよろしく、お願いいたします」

その言葉に、彼の深い青色の瞳がまるで儚いものを慈しむように優しく細められる。


「……こちらこそ。これからどうぞよろしくお願いします、俺の未来の奥様」


こうして、彼の不埒な囁きから私達は偽りの婚約を行い――〝契約結婚〟をすることに決まったのだった。

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