クールな御曹司と愛され新妻契約
「……そうだよね、契約結婚なんだから。それが当たり前かも」

逆に自分は何故そんな大事なこと忘れて、デートだなんて浮かれていたのだろうか。

私はつきりと小さく痛んだ胸を無視するように「集中、集中」と唱えながら、一心不乱に仕事に打ち込んだ。


今夜用の一食分を作らなくて良いことと、冷泉様が帰宅されるまでの時間が余る。
なのでその時間は、全室の窓や網戸の掃除に当てることにした。

昨夜降った黄砂や雨に打たれていた窓を、専用の洗剤やスクイジーを使って磨き上げ、網戸も丁寧にブラシで擦っていく。

「……うん、良い眺め!」

曇りひとつないガラス窓にからは、燃えるような夕焼けに飲み込まれそうな都会の街並みが一段と美しく見えるようになった。

掃除道具を洗浄し、トートバッグの中に片付けながら壁にかかった時計を確認すると、そろそろ冷泉様が帰宅する時間だった。

『帰宅まで待っていてください』と言われたものの、仕事外の時間にここで突っ立っているよりは、メインエントランスという公共の場で待ち合わせをした方が良いかもしれない。
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