クールな御曹司と愛され新妻契約
「三並さん。こんな雇用主と従業員みたいな距離感では、ご両親にも幼馴染さんにも簡単にバレてしまうと思うんです」

「えっ? ああ、そうですね。わかります」

唐突に変わった話題に、私は神妙な表情で頷く。

どんな演技もそつなくこなせそうな冷泉様はまだしも、男性とお付き合いをしたことのない私は、どう頑張っても冷泉様の恋人のようには振る舞えない。

それどころか、三年間で身に染み付いた仕える者の姿勢を、彼の前で崩せそうな気がしなかった。

「うーん、難しそうです」

「でしょうね。俺の常識的なアプローチでは、暖簾に腕押しのようだったから。ということは……少し強引に恋人らしくするしかないな」

「強引に恋人らしく、ですか? それは、どんな方法で――」

私は頭を悩ませながら呟いた時、冷泉様がおもむろにこちらへ一歩距離を詰める。

「あっ、あの、冷泉さま……っ?」

急に彼との距離がグッと縮まったので、驚いて一歩下がると、背中が玄関の壁に当たった。
壁際に追い詰められたような状況の中、私の頭上に冷泉様がトンっと手をつく。

「こうやって……強制的に俺を意識を向けてもらおうかな、と」

大人の色気を纏った甘い表情で見下ろす彼の腕の中に閉じ込められ、私の心臓はドキドキと早鐘のように鳴り響いている。
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