クールな御曹司と愛され新妻契約
そう言って彼は、すぐにブラックのカードを店員に渡しスマートに支払いを済ませようとしてしまう。
その行為に驚いた私は「ま、待ってくださいっ」と千景さんに詰め寄った。

「こんな素敵なドレスも靴も、私がいただくことはできませんっ」

「なぜ? 俺が着飾った姿の可愛らしいあなたとデートしたかっただけですから。俺の気持ちだと思って、受け取ってください」

ううっ。千景さんの気持ちって、なに?
なんでここまでしてくれるの……?

どう考えても私達は、契約結婚にも至っていない、偽装婚約中の他人でしかないのに。

それに一番の原因は、私が着替えを忘れてしまったせいなのだから、私がきっちりお金を支払うべきである。

「では、夕食代は私に出させてください」

絶対に出します! という勢いとともに千景さんへ言い募ると、彼は口角を色っぽく上げて、長い人差し指の先を『静かに』というように私の唇に当てた。

「今夜のデート代は全て俺に支払わせてください。俺に格好つけさせて。ね?」

困惑で眉を下げてしまうも、小首を傾げた千景さんに下から見上げるように顔を覗き込まれて、私の顔はぶわりと熱を帯びる。
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