クールな御曹司と愛され新妻契約
「とっても勉強になりました。でも、家庭料理に取り入れていくには、私にはちょっとハードルが高すぎかもしれません。ピジョノーは料理できるかどうか……」

私は申し訳なくなり、肩を竦めて苦笑する。

どれもこれも自分にとっては新しい味ばかりで本当に勉強になったのだが、いわゆる再現料理というレベルまでにしか到達できそうにない。
これから何年かかっても、ここまで繊細な料理は作れないだろう。

すると、千景さんは口元を軽く握った指先で隠しながら、「ふふふっ」と堪えきれなかった笑みを漏らすように楽しげに肩を揺らした。

「俺はこの味を再現してもらうために、あなたをここへ連れてきたわけではありません」

「え、そうなんですか? では、どうして……? 一流のおもてなしや給仕のやり方の勉強でしょうか?」

「それも違います。あなたを愛する男が、あなたに美味しいものを食べさせたいと思っただけ。これは、ただのデートです。他意なんかありません」

ど、どういう意味? あああ愛する男って?

私の頭の中で、彼の言葉がぐるぐると回る。
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