クールな御曹司と愛され新妻契約
リングケースに書かれた『Eternita』というブランド名は、年頃の女性なら誰でも知っている高級ブライダルジュエリーブランドのものだ。

前に、仕事で伺ったお家の奥様が『銀婚式の記念にオーダーした特注品』とゴージャスな大粒の宝石が飾られた指輪を見せて下さったこともあるし、この間ご出産されたお嬢様も『彼の給料の五ヶ月分なんです』と眩いダイヤモンドが輝いた婚約指輪を昨年見せて下さった。

そんなお話だけでも、このブライダルジュエリーブランドがいかに高級か理解できる。

私はテーブルの上で彼に『待った』を掛けるようにわたわたと両手を振って、「結婚していただけるのは、嬉しいです。ですが、婚約指輪はやっぱりいただけません」と頭を下げた。

「では、少し早いですが誕生日プレゼントということにしましょう。あなたに貰っていただかないと、この指輪は捨てられることになる。それなら、ね? 受け取ってください」

彼にとって私はただ契約結婚を交わす相手というだけで、それすら貰えるような関係ではない。
それなのに、千景さんは微笑んだまま私の左手を取り、そっと薬指に指輪を滑らせた。
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