クールな御曹司と愛され新妻契約
あの夏から、もう八年かぁ……。

きっとこの八年間、彼は沢山の恋を経験して男女の駆け引きも巧みになったに違いない。
白々しい言葉を、再び私へ向けるのに罪悪感も感じないほど、楽しいことばかりの人生を送って来たのだろう。

……私の中にある傷跡は、時間の経過によって薄れることなんて、なかったのに。



日曜日――いよいよ、両親に挨拶へ行く運命の日がやってきた。

本日から千景さんの家に移り住むことになった私は、いつもの掃除道具やエプロンなんかが入っている仕事用トートバッグとは別に、洋服や下着など宿泊用の荷物を詰めたスーツケースと共に迎えに来てくれた千景さんの車に乗り込んで、東京郊外にある実家へ向かった。

左手の薬指には、千景さんから貰った婚約指輪をしっかり嵌めている。

実家で出迎えてくれた両親には重苦しい雰囲気が漂っていたが、招き入れられたリビングダイニングには例年と全く同じく、私の誕生日と母の日を兼ねた夕食会の風景が広がっていた。

両親は私からの『婚約者を連れて行く』という連絡を信じ、幼馴染を誕生日に呼ぶ暴挙には出なかったらしい。
それだけで、まずはホッとしてしまった。
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