クールな御曹司と愛され新妻契約
「初めまして。麗さんとお付き合いをさせて頂いている、冷泉千景と申します。本日はお時間を頂戴しまして、誠にありがとうございます。ご両親へのご挨拶が遅くなってしまい、大変申し訳ありません」

お父様が最中をお好きだと伺いましたので、と三つ揃えのスーツをきっちりと身に纏った千景さんが、手土産を取り出す。

厳しい顔で腕を組み千景さんを見定めていた父は、彼の挨拶と手土産に少しばかり眉間のシワを減らした。

私は緊張しながらヒヤヒヤしているというのに、和やかな笑みを浮かべている余裕たっぷりな千景さんは、両親へ名刺を差し出して簡単な自己紹介を行い、二人の馴れ初めやお付き合いに至った経緯、そして仕事上の規約があり交際していることは秘密にせざるを得なかったことなどの〝設定〟を順序立てて説明していく。

両親はそれを終始厳しい顔で聞き入ると、「結婚したら麗の仕事はすぐに辞めさせて、家庭に入らせるように」と念押ししてきた。

思わずたじろいでしまった私に千景さんは動じることなく微笑みながら、「ええ。彼女にはそうしていただく〝つもり〟です」と飄々と答える。
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