クールな御曹司と愛され新妻契約
「いえ。お優しいご両親で安心しました。まずはひと段落、でしょうか。婚姻届は明日にでも役所に――」

助手席のドアを開けエスコートしてくれる彼に、ぺこりと頭を下げてから車内に乗り込もうとした。その時。

「……おい。助かりましたって、なに」

どこかで聞き覚えのあるような声が前方からかけられる。
思わずビクリと固まり、恐る恐る道路側を向くと……お隣の門扉に手を掛けていた長身の男性が、こちらへ向かって歩いてきた。

その手には、コンビニ帰りなのか彼の片手には小さな白いレジ袋が掛かっている。

足元から世界が遠のいていくような感覚とともに――耳の奥で、真夏でもないのにミーンミーンとセミの鳴き声が響く。

『罰ゲームなのに本気にしてんの? 自意識過剰過ぎだろ』
『はははっ、ウケる。誰がお前なんかに本気になるかよ』

耳障りな嘲笑を浴びて、サアッと頭から爪先まで血の気が引いていく。

気がつけば、脳裏に、高校生のあの夏の日がフラッシュバックしていた。

そのせいで、この茶色に染めた髪をツーブロックのショートヘアにした爽やかな美丈夫が、幼馴染の諏訪君であるということを、遅ればせながら理解する。

な、なんでここに……。
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