クールな御曹司と愛され新妻契約
そう言って、彼はスーツジャケットの内ポケットからスマートに名刺入れを取り出すと、洗練された所作で諏訪君へ向かって名刺を差し出す。

「冷泉ビバレッジの御曹司？　なるほど、世間知らずの麗を騙して恋人にしたってわけね。顔が良くて金持ちの男なんて、ロクな奴がいるはずがない。麗、親父さんたちのとこ帰るぞ」

「きゃっ」

諏訪君は尚も千景さんに食ってかかり、更には突然私の手首をぎゅっと掴んで力任せに引っ張った。

その瞬間、不機嫌そうに眉を顰めた千景さんが私を掴む諏訪君の手首に手を添える。

「麗さんに触れないでいただきたい」

怒りの籠った低い声で静かに唸った千景さんの瞳は、冷徹さを帯び、完全に据わっていた。

「あなたが俺に向けた蔑みは、全て褒め言葉として受け取っておきます。……だがこれ以上、麗さんの人生を翻弄するのは許さない」

諏訪君よりも十センチ以上背の高い千景さんは、冷え冷えとした声でそう忠告しながら、彼を見下ろす。

添えられているだけに見えた手にはどうやら相当な力が入っていたらしく、諏訪君は「いっ」と短く声を上げて私から咄嗟に手を離した。
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