クールな御曹司と愛され新妻契約
身勝手な理由で頭を下げた幼馴染に向かって、千景さんは「そうですか」とまるで彼に同情するような声音で囁くと、すっと目を細めてから――至極美しく、ふわりと微笑んでみせた。

「返すも何も、麗さんを娶るのは俺で、最初からあなたじゃない」

長い睫毛に覆われた青い瞳の奥は決して笑っていない。
それどころか、まるで私のことを愛しているのかと錯覚してしまうほど、嫉妬に揺らめく熱を帯びている。

「それから。彼女を今後一切、呼び捨てにしないでもらおうか。あなたに呼び捨てにされるのだけは、不愉快だ」

幼馴染の顔が敗北に歪んだ時、千景さんは「失礼する」と一言告げると、助手席のドアを再び開く。

涙を堪えていた私を紳士にエスコートしてくれた彼は、私の前髪を愛おしそうに指先で払うと、誰かに見せつけるかのように、現れた額へ優しくキスを落とした。



車に乗り込み、帰路についた。
左側の運転席にいる千景さんを盗み見ると、彼は少し苛立ったような表情でハンドルを握っている。

千景さんからもらった額への優しいキスのお陰で、じわじわと滲み出てきていた涙は、何年間も胸の奥にあった幼馴染への悔しさや怒りや色々なものを全部一緒に引き連れて、すっかり消失していた。
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