クールな御曹司と愛され新妻契約
心がスッと軽くなって解き放たれたような感覚というのだろうか、ゆっくりと新しい自分に生まれ変わるかのような真綿に包まれた感覚が、心地良い。

と同時に、その解き放たれた部分には、正体不明の新しい悩み事が押し寄せてきたように思う。

……なんだか、あれから……ドキドキと胸が高鳴ったままで、落ち着かない。

この胸の高鳴りは……両親に反対されずに、契約結婚が上手く進んだから?
それとも、今夜から千景さんの家に同居することになるから?

それも、勿論要因としては存在している。

けれど……もっと直接的な、幼馴染へ向けられた千景さんの嫉妬に燃える視線の熱に当てられて、私の胸中には切ない悦びが燻っていた。

もし、少しでも千景さんが私のことを好きでいてくれるのなら……どんなに、幸せなことだろうか。

――彼が私を本気で愛してくれるなんてこと、あるはずがない。

だと言うのに、ふわふわと夢心地の胸は、何かが始まる予感をあたかも確信しているように淡い期待で揺れている。

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