クールな御曹司と愛され新妻契約
それから幾ばくか経ち、暗い夜道を順調に走っていた車は、大きな道路で赤信号に捕まり停車した。

「……麗さん」

甘く低い声音で、そっと名前を呼ばれる。
千景さんを見上げると、その相貌は切なげに歪められ、瞳は私の身を焦がすほどの独占欲に濡れていた。

そんな彼を見つめるだけで私の胸はきゅーっと締め付けられ、頬や体が熱く火照っていく。

それが彼に伝わらないよう、「千景さん、あの、さっきは――」と矢継ぎ早に口を開いたが、助けてくれてありがとうございました、という言葉まで続けることはできなかった。

千景さんは焦燥感に駆られたように運転席からこちらへ上半身を乗り出し――今までハンドルを握っていた指で私の顎先を掬い上げ、性急に私の唇を奪った。

突然のキスに驚き、これは牽制? それとも確認?
と、またキスに含まれる意味を探し出す思考を、彼の柔らかな舌がとろとろに溶かしていく。

「んん……っ、ちかげ、さん」

深く深く貪られるような、息もつけないほどの甘いキスに翻弄されながら、私の体はどんどん力が抜けていった。

「し、信号、変わっちゃいます……」

「まだ変わりません」
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