亡いものねだり
穂香と先輩が去った後。


僕は森の中で一人しゃがみこみ、置き去りにされた遺書の最後の部分を読み終えた。


僕の幻が、意識が少しずつ希薄になって夜の帳に吸い込まれていく。


僕が死んだ後穂香は自分を責め、絶対に『約束』を守ることを誓った。


そして幸運のお守りに強く僕の存在を願い――僕は現れた。


姿までは見えなくても、彼女は僕の存在を強く感じられた。


彼女に願われて戻ってきた故に、僕には穂香の心が流れこんでいた。


まさに一心同体……だからこそ言葉を交わさずとも二人の会話は成立した。


僕もそれをあたかも普通の様に受け入れて、夢の様な時間に浸った。


どこにも存在しない僕を願った彼女と、一年前の夏祭りの再現を願った僕。




どうしようもなく虚しい……二人の亡いものねだり。
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